図1:太陽より温度の低い恒星であるLP890-9と、系外惑星がトランジット様子のイメージ図。MuSCAT3による複数の波長帯で同時にトランジット(減光)を捉えたため、恒星の表面現象ではなく、系外惑星ということがわかった。高解像度版はこちら。(クレジット:アストロバイオロジーセンター/MuSCATチーム)

太陽系から約100光年の距離にある低温の恒星 LP 890-9(別名:TOI-4306、SPECULOOS-2)の周りに2つのスーパーアースが発見されました。外側のスーパーアースLP 890-9 cは、惑星表面に液体の水が存在しうる領域 (ハビタブルゾーン)内を公転しています。今回の発見は、NASAのトランジット惑星探索衛星TESSと、ベルギー・リエージュ大学の研究者らによるSPECULOOSプロジェクト、そして、東京大学とアストロバイオロジーセンターの研究者らによる多色同時撮像カメラMuSCAT3とすばる望遠鏡のIRDの観測が連携することによって成功しました。

2022年現在、惑星が恒星の手前を通過する「トランジット」という現象を利用した系外惑星の探索が、トランジット惑星探索衛星TESS(注1)によって行われています。TESSは、4台の超広視野カメラを用いて空の24度×96度の領域を27.4日ずつ観測し、トランジットの際に起きる恒星の周期的な減光を探しています。今回惑星が発見された、低温の恒星(赤色矮星;注2)LP 890-9は、周期約2.73日の減光がTESSで発見され、トランジット惑星候補「TOI-4306.01」という名前で2021年7月21日に世界に公開されました。

TESSの公式追観測プログラムであるTFOP(TESS Follow-up Observing Program)に参加している日本のMuSCATチーム(注3)とベルギーの研究者らによるSPECULOOSチーム(注4)は、2021年8月以降それぞれ独立に、この惑星候補が本物か確認するための追観測に取り組みました。これはTESSで発見される周期的な減光が、2つの恒星(連星)がお互いを隠す場合にも起こりうるからです。

MuSCATチームは、マウイ島のハレアカラ観測所に設置した4色同時撮像カメラ「MuSCAT3」による多色トランジット観測と、すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置IRDによる視線速度の観測から、2021年10月までにTOI-4306.01が惑星(LP 890-9 b)であることを確認しました。

一方、SPECULOOSチームは2021年8月からTOI-4306.01のトランジット時刻以外も含めてLP 890-9の継続的な観測を行い、2021年10月と11月にTOI-4306.01とは別の周期の減光(別のトランジット惑星候補)を発見しました。SPECULOOSチームのデータでは惑星の公転周期を1つに絞り込むことができませんでしたが、MuSCATチームはSPECULOOSチームと協力してMuSCAT3での追観測を行い、このトランジット惑星候補が本物の惑星(LP 890-9 c)であり、公転周期が約8.46日であることを突きとめました。

MuSCATチームを率いる東京大学の成田憲保教授は、「IRDによる視線速度測定は、惑星候補の質量に強い制限を与え、LP 890-9を公転する2天体が本物の惑星であることを示す決め手になりました」と語ります。

発見された2つの系外惑星LP 890-9 bとLP 890-9 cは、半径がそれぞれ1.32地球半径と1.37地球半径のスーパーアース (注5) です。この半径の惑星は、理論的には、地球よりやや大きな岩石惑星と考えられます。この2つのうち外側にあるLP 890-9 cは、主星(LP 890-9)からの距離が惑星表層に液体の水を保持しうる条件を満たした領域、いわゆるハビタブルゾーン (生命居住可能領域)内にあります。公転周期が10日に満たない、つまり、主星のすぐ近くにある惑星がハビタブルゾーンにあるのは、主星が太陽の15パーセントほどの半径の小さな恒星で、その表面温度が摂氏約2600度しかないためです(太陽は摂氏約5500度)。

図2:赤外線分光器 IRD。2018年からすばる望遠鏡に搭載され、低温の惑星をめぐる惑星の探査に活躍しています。IRDの観測から、LP890-9bとLP890-0cの質量が、それぞれ13.2地球質量以下、25.3地球質量以下という制限が与えられました。(クレジット:アストロバイオロジーセンター)
図3:MuSCAT3が2020年8月に東京大学で完成した際の写真。2020年9月からはマウイ島のハレアカラ観測所にある2m望遠鏡に搭載されています。右下はMuSCAT3のロゴ(クレジット:MuSCATチーム)

LP 890-9 cはまだ発見されたばかりで、そこがどんな世界で、はたして生命が育まれているのかどうかも現時点ではわかりません。しかし、LP 890-9 cはトランジット惑星であるため、将来のトランジットの追観測によって大気組成や雲の有無など大気の性質を詳しく調べることができます。大気の性質は地表に液体の水が安定的に存在出来るかどうかに大きく影響します。たとえ将来の観測でこの惑星には生命が存在しそうにないとわかっても、ハビタブルゾーンにある岩石惑星がどのような大気を持つのかを研究することは、私たちの住む地球が宇宙の中でどんな存在なのかを位置付ける上で重要です。その点において、今回の発見は将来のさらなる研究へとつながる重要な研究対象をもたらしたといえます。

本研究成果は、欧州科学誌『アストロノミー&アストロフィジックス』のオンライン版に2022年9月7日付で掲載されました(Delrez et al. "Two temperate super-Earths transiting a nearby late-type M dwarf")。

本研究は、科学研究費助成事業(科研費:課題番号JP15H02063、JP17H04574、JP18H05439、JP18H05442、JP19K14783、JP21H00035、JP21K13975、JP21K20376、JP22000005)、特別研究員奨励費(課題番号JP20J21872)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST(課題番号JPMJCR1761)、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンタープロジェクト(課題番号AB031010、AB031014)、社会福祉法人梓友会からの支援を受けて実施されました。

詳しくは東京大学のプレスリリースをご覧ください。

(注1)トランジット惑星探索衛星TESS (Transiting Exoplanet Survey Satellite) は、マサチューセッツ工科大学が中心となって実施しているNASAの衛星計画です。2018年4月18日に打ち上げられ、2年間でほぼ全天のトランジット惑星を探索するという計画を実施してきました。現在は第2期延長計画が実施されており、5年目の観測が行われています。第1期延長計画までの4年間で、5,000個を超えるトランジット惑星候補を発見してきました。

(注2)表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星と呼びます。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星です。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがあります。

(注3)MuSCATシリーズは、岡山県の188cm望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52m望遠鏡、アメリカ合衆国・マウイ島の2m望遠鏡に搭載された、3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジットを観測できる観測装置(装置名称はそれぞれMuSCAT、MuSCAT2、MuSCAT3)です。MuSCATはMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいます。

(注4)SPECULOOSは、ベルギーのリエージュ大学の研究者がリードする、赤色矮星周りのハビタブルゾーンを公転するトランジット惑星の探索プロジェクトです。SPECULOOSはSearch for habitable Planets EClipsing ULtra-cOOl Starsの略で、ベルギーの伝統的なビスケットの名前にちなんでいます。

(注5)半径が地球の1~1.5倍程度の、地球よりやや大きな惑星のことをスーパーアースと呼びます。理論上、この半径の惑星は、水素大気を持つ小さなガス惑星(サブネプチューン)である可能性が極めて低い(水素大気を維持できない)ため、岩石を主体とした惑星と考えられます。

すばる望遠鏡についてすばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

 

(関連リンク)
東京大学 2022年9月7日 プレスリリース
国立天文台ハワイ観測所 2022年9月7日 プレスリリース
国立天文台 科学研究部 2022年9月7日 プレスリリース