• すばる望遠鏡に搭載された赤外線分光器IRDを用いた戦略枠観測による最初の系外惑星が発見された。
  • 低温度・低質量の赤色矮星まわりにおいて、生命居住可能性について議論可能な惑星を、赤外線ドップラー法により世界で初めて検出した。
  • 次世代望遠鏡における生命探査観測の観測対象のひとつとなる。
Ross 508 b
図1:今回発見した 惑星系の模式図。緑の領域は、液体の水が存在しうるハビタブルゾーン(HZ)を表します。惑星「ロス 508  b」は、中心の赤色矮星「ロス 508」を楕円軌道(水色の線)で周回します。その軌道の半分以上はHZより内側(実線部分)、残りはHZの中にある(破線部分)と推定されています。(クレジット:アストロバイオロジーセンター)

太陽に似た恒星まわりの巨大惑星の発見を契機に近年大きく発展した系外惑星の研究は、現在、太陽より軽い、赤色矮星と呼ばれる恒星のまわりに注目が集まっています。銀河系の恒星数の4分の3を占め、太陽系の近くにも数多く存在する赤色矮星は、私たちの近くにある系外惑星を発見するのに絶好の観測対象です。大気や表層の詳細な観測が可能な、近傍の系外惑星を発見することによって、太陽系とは大きく異なる環境の周りでの生命の有無を議論することができるようになるでしょう。

しかし、赤色矮星は、表面温度が4000度以下と低温で、可視光では非常に暗い天体です。従来の可視光分光器を用いた惑星探査では、「プロキシマ・ケンタウリb」など、限られたごく近くの赤色矮星まわりの惑星しか発見されませんでした。とりわけ、表面温度が3000度以下の赤色矮星(晩期赤色矮星)は系統的な惑星探査が行われていませんでした(注1)。

宇宙における生命を調べる上で重要な対象であるにもかかわらず、可視光であまりに暗いために観測が困難な赤色矮星。この赤色矮星に対する分光観測の困難さを解決するため、赤色矮星が比較的明るい赤外線での、高精度分光器による惑星探査が待たれていました(注2)。

アストロバイオロジーセンターは、8メートル級望遠鏡用としては世界初の高精度赤外線分光器の開発に成功しました。これがすばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置IRD (InfraRed Doppler)です。ドップラー法を用いて、人が歩く速さ程度の、恒星の微少な速度のふらつきを検出することができます(注3、注4)。

このIRDを用いて、晩期赤色矮星を戦略的に観測し惑星を探査するプロジェクト(IRD-SSP)が2019年より開始されています。世界初の晩期赤色矮星まわりの系統的な惑星探査で、国内外の研究者約100名が参加する国際プロジェクトです。最初の2年間は、小型の惑星も検出可能な、雑音の少ない「安定した」赤色矮星を発見するためのスクリーニング観測が行われました(注5)。現在は、スクリーニングによって精選された50個程度の有望な晩期赤色矮星を集中的に観測する段階に入っています。

今回、IRD-SSPで最初の系外惑星が、地球から約37光年離れた位置にある、太陽の5分の1の重さの赤色矮星「ロス508」(注6)のまわりで発見されました。赤外線分光器を用いた系統的探査で発見された系外惑星として世界初の成果です(注7) 。この惑星「ロス508b」は、地球の約4倍の最低質量しかありません(注8)。中心星からの平均的な距離は地球・太陽の距離の0.05倍で、ハビタブルゾーンの内縁部にあります。興味深いことに、この惑星は楕円軌道を持つ可能性が高く、その場合は、約11日の公転周期でハビタブルゾーンを横切ることになります(図1、図2)。

図2:IRDで観測した恒星「ロス508」の視線速度の周期的な変化。惑星「ロス508b」の公転周期(10.77日)で折り返してあります。ロス508の視線速度の変化は秒速4メール弱しかなく、人が走るよりも遅い程度のごく微小なふらつきをIRDが捉えたことが分かります。赤い曲線は観測値へのベストフィットで、正弦曲線からのずれは、惑星の軌道が楕円である可能性が高いことを示しています。(クレジット:アストロバイオロジーセンター)

ハビタブルゾーンにある惑星は表面に水を保持し、生命を宿す可能性があります。ロス508bは、今後、赤色矮星まわりの惑星の生命居住可能性について検証するための重要な観測対象となります。惑星と恒星の距離が近いため、現在の望遠鏡では直接撮像観測のための解像度が足りないのですが、惑星大気の分子や原子の分光観測も重要です。将来的には、30メートル級望遠鏡による生命探査の観測対象となるでしょう。 

これまで、低温度星のまわりの惑星は、プロキシマ・ケンタウリbを含めて3個しか知られていませんでした。IRD-SSPによって、引き続き新たな惑星が発見されることが期待されます。

今回、SSP-IRDで最初の惑星が発見された意義について、論文の主著者の原川紘季研究員(国立天文台ハワイ観測所)は次のように語ります。「ロス508 b は、近赤外線分光データのみを用いてスーパーアースの検出に成功した世界初の例となります。それ以前のスーパーアースのような軽い惑星の発見においては、近赤外線観測だけでは精度が足りず、可視光の高精度な視線速度測定による検証が必要でした。本研究は、IRD-SSP単独で惑星の検出が可能であることを示し、可視光では暗すぎて観測が難しいような晩期赤色矮星にまで高精度な探索が可能であるというIRD-SSPのアドバンテージを明確に示しました」

IRD-SSPを率いる佐藤文衛・東京工業大学教授は「IRD計画の開始から14年。私達は、まさにロス508bのような惑星を見つけたいと思って開発・研究を続けてきました。今回の発見は、IRDの高い装置性能とすばる望遠鏡の大口径、そして集中的かつ高頻度のデータ取得を可能にした戦略枠観測の枠組みがあって初めて実現したものです。IRD-SSPは、低温赤色矮星という未踏の恒星まわりの惑星を今後も精力的に探査し、新たな発見を目指していきます」と意気込みを語ります。

本研究成果は、『日本天文学会欧文研究報告』に2022年6月30日付で掲載されました (Harakawa et al. "A Super-Earth Orbiting Near the Inner Edge of the Habitable Zone around the M4.5-dwarf Ross 508")。

(注1) 恒星の前面を惑星が横切る際の、恒星の明るさの変化を検出するトランジット法は、分光を行うドップラー法ほど多くの光子を必要としないため、トランジット法による赤色矮星まわりの惑星探査が近年進んでいます。TESS(テス)衛星によるトランジット惑星探査では、比較的温度の高い赤色矮星(早期赤色矮星)のまわりの地球型惑星の発見が可能です。

(注2) 例えば、30光年離れた位置から見た太陽の明るさは、可視光では5等級、赤外線では3等級です。一方、最も軽い晩期赤色矮星は可視光では19等級と非常に暗いのですが、赤外線では11等級と比較的明るいのです。

(注3)トランジット法では、惑星軌道が視線に沿う惑星しか検出できないのに対し、ドップラー法では、そのような天球面上での配置によらずに惑星が検出できます。また、惑星の「質量」が分かる点でも重要な手法です。

(注4) IRDは、赤外線観測の利点を活かして、惑星検出以外にも、地球型惑星若い惑星の軌道の決定、惑星大気の検出などで最先端の成果を挙げています。

(注5)赤色矮星はフレアなどの表面活動が高いため、惑星が存在しなくても、その表面活動が恒星の視線速度に変化をもたらす可能性があります。そのため、表面活動の小さい安定した赤色矮星のみが、地球のような小さい惑星を探査する対象となります。(実は、可視光に比べると赤外線では表面活動の影響が減少するため、同じ精度であれば赤外線観測の方が惑星検出に有利です。しかし、地球型惑星のような軽い惑星を発見するためには、できるだけ活動性の小さい赤色矮星を観測することが可視光・赤外線を問わず重要です。)

(注6) ロス508は、フランク・エルモア・ロス(F. E. Ross、米、1874-1960)が出版した固有運動の大きな恒星のリストの508番目の天体です。

(注7) 発見されたロス508の周期的なふらつきが本当に惑星によるものか確かめるため、IRD-SSPチームは、惑星と間違える可能性のある恒星活動を示すいくつかの指標(恒星の明るさの変化やいくつかの輝線の形状変化の指標)を洗い出し、それらの指標の周期が惑星周期とは明確に異なることを示しました。これは、先にトランジット法で報告されている惑星候補をドップラー法で確認するよりも各段に難しい作業ですが、トランジットを起こさない惑星を検出するためには不可欠な手法です。

(注8) ドップラー法だけでは原理的に惑星質量の下限値が求められます。仮にトランジットを観測できる惑星系だった場合、その結果と組み合わせて正確に惑星質量が求められます。

すばる望遠鏡について

すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

 

(関連リンク)
国立天文台 2022年8月1日 プレスリリース
ハワイ観測所2022年8月1日 プレスリリース