ボルドー大学、東京大学、アストロバイオロジーセンターを中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラなどを用いて星形成領域を撮影した画像から、浮遊惑星の均質なサンプルとしては過去最大の、およそ 100 個もの天体を発見しました。星形成の理論モデルと比較した結果、これらのほとんどは星のように分子雲から生まれたのではなく、惑星のように恒星の周りで生まれたのちにそれぞれの惑星系から放出されたことが明らかになりました。宇宙空間を漂う謎の惑星質量天体の正体と起源に迫った重要な成果です。

星形成領域を漂う、木星質量の浮遊惑星の想像図。さそり座・へびつかい座の星形成領域(距離約430光年)で、約100個の浮遊惑星が検出されました。(クレジット:ボルドー大学)

太陽以外の恒星を周回する惑星 (系外惑星) の観測の発展は目覚ましく、これまでに 4500 個を超える系外惑星が発見されています。一方で、惑星程度の質量でありながらも、系外惑星のように恒星を周回せずに宇宙空間をただよう天体の存在が、2000年頃から日本、英国、スペインの独立な観測により明らかになってきました。これらは「浮遊惑星」、あるいは「孤立惑星」と呼ばれています。惑星と同じく木星質量の約 13 倍より軽い天体ですが、近くに明るい恒星が存在しないため、宇宙空間に孤立して浮遊しているものと考えられています。

このような浮遊惑星は、褐色矮星 (注1) と同様に、質量が小さいために核融合を起こして自ら輝くことができず、非常に暗い天体です。そのため、浮遊天体を直接に画像として捉え、そのスペクトルを調べた例は限られており、直接観測による発見自体も散発的なものでした (注2)。

今回、ボルドー大学、東京大学、アストロバイオロジーセンターを中心とする国際研究チームは、さそり座からへびつかい座にかけての星形成領域 (約 171 平方度) に着目しました。この星形成領域は、太陽よりずっと重い大質量星から太陽より軽い小質量星までが集団で生まれている領域としては地球に最も近い領域のひとつで、さまざまな星やその集団の形成について詳しく調べることができます。

研究チームは、世界中の観測所における過去 20 年間の可視光線および赤外線の画像約8万枚を集約し、2600 万天体の位置、明るさ、固有運動 (天球面上での天体の動き) を含むカタログ (DANCe; Dynamical Analysis of Nearby ClustErs、近傍の星団の力学解析) を作成しました。DANCe カタログには、すばる望遠鏡の広視野カメラ Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム) や Suprime-Cam (シュプリーム・カム) のデータも含まれており、そのシャープな画像は天体の位置を精密に求める上で重要な貢献をしました。

研究チームは、ガイアとヒッパルコスという2つの位置天文衛星 (注3) のデータを組み合わせ、星の固有運動をさらに精密に求めた結果、この星形成領域にあると推定されるおよそ 100 個もの、惑星質量と考えられる暗い天体を DANCe カタログから抽出することに成功しました。近くに恒星が存在しない浮遊惑星を、一つの領域で均質に捉えた数としてはこれまでで最多となります。なお、惑星よりも重い天体まで含めると、この領域で 3455 個の天体が同定されています。

浮遊惑星を含む多数の生まれたばかりの「星」ぼしが同定されたので、この星形成領域で「どの重さの星が、それぞれ何個生まれるか?」、つまり「初期質量関数」と呼ばれる問題に迫ることができます。宇宙でなぜ太陽のような質量をもった星が多数生まれるのか、それより重い星や軽い星は相対的にどの程度生まれるのかという問いは、星から構成されている銀河の研究にとっても不可欠な情報であり、天文学の最重要問題のひとつです。特に、太陽よりずっと軽い星の頻度はいまなお明らかではありません。

今回、太陽質量の 10 倍程度の重い星から、100 分の1以下の浮遊惑星までの質量関数が初めて正確に求められました。この質量関数を、星形成の標準理論、つまり、分子雲が自己重力で収縮して恒星や褐色矮星が生まれるというモデルと比較すると、観測された浮遊惑星の数は、理論モデルを惑星質量まで外挿して予想される惑星数をはるかに超えることが示されました。この結果は、恒星が集団で生まれ星団を形成した際に、個々の若い恒星の原始惑星系円盤の中で生まれた惑星が、惑星同士の重力散乱 (注4) などにより放出され、浮遊惑星の大部分が形成されたというシナリオを支持しています。つまり、この領域の大多数の浮遊惑星は「星のように生まれた」のではなく、「惑星のように生まれた」ことが判明しました。

今年の 12月にはアメリカ航空宇宙局 (NASA) の大型赤外線宇宙望遠鏡 JWST が打ち上げられる予定です。論文の共著者である田村元秀教授 (東京大学/自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター) は「ハッブル宇宙望遠鏡の赤外線版後継機ともいえる口径 6.5 メートルの JWST にとって、浮遊惑星のような低温で微弱な明るさの天体は、高感度赤外線で観測すべき最適な観測対象となるでしょう。系外惑星と異なり、直接観測の邪魔になる明るい恒星が近くに無いからです。今回発見された浮遊惑星は、その大気の研究や通常の系外惑星との比較研究を行う上で重要なサンプルとなるでしょう」と今後の展望を語っています。


(クレジット:Hervé Bouy (University of Bordeaux), Teun van der Zalm and the COSMIC-DANCE team)

本研究成果は、Nature Astronomy (2021年12月22日付) に掲載されました (Núria Miret-Roig et al. " A rich population of free-floating planets in the Upper Scorpius young stellar association")。

 

(注1) 木星の約 80 ~ 13 倍の質量 (太陽の約 10 分の1~ 100 分の1の質量) の星を褐色矮星とよびます。

(注2) 2011年には、系外惑星を検出する間接方法のひとつである重力マイクロレンズの観測からも、銀河系内を漂うと考えられる浮遊惑星が多数存在することが示唆され、その数は恒星の数に匹敵すると推定されました。2つの恒星が一直線に並んだとき、アインシュタインの一般相対性理論に基づく、光が重力によって曲がる効果 (重力レンズ効果) によって、手前の恒星の重力がレンズのような働きをして、遠方の恒星の光が集められ、一時的に明るくなる現象を重力マイクロレンズ現象と呼びます。この現象により系外惑星や浮遊惑星を見つけることができますが、一時的な現象のため追観測ができず、その正体は謎でした。

(注3) Hipparcos (ヒッパルコス) と GAIA (ガイア) は、天体の位置と距離を正確に計測する位置天文衛星で、ヨーロッパ宇宙機関 (ESA) がそれぞれ 1989年と 2013年に打ち上げました。後継機である GAIA では、距離の測定精度が格段に上がり、新旧の位置天文衛星のデータを組み合わせることにより、天体の固有運動を精密に測ることができるようになりました。浮遊惑星を探査する過去の撮像観測では、多数の背景星が混入する問題があったのですが、今回、固有運動を加味することで、その星形成領域に属する天体であることの実証が可能になりました (恒星が集団で生まれる星形成領域のような領域では、浮遊惑星も恒星と同様の空間運動をしています)。

(注4) 惑星同士が互いの重力の影響を受け、軌道が変化することを重力散乱とよびます。この影響を大きくうけると、惑星が誕生した惑星系を飛び出し浮遊惑星になると考えられていました。今回の成果は、このシナリオを支持しています。

 

すばる望遠鏡について:

すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

 

(関連リンク)

国立天文台 2021年12月23日 研究成果

国立天文台すばる望遠鏡 2021年12月22日 研究成果

東京大学2021年12月23日 プレスリリース