―全ての隣り合う惑星の公転周期が尽数関係を持つ惑星系HD 110067―
発表のポイント
- 宇宙望遠鏡と地上望遠鏡による世界的な連携観測によって、太陽系から約100光年離れた恒星HD 110067の周りで6つのトランジット惑星を発見した。
- 6つの惑星は、全ての隣り合う惑星同士の公転周期が簡単な整数比で表される尽数関係にある。
- この惑星系は、惑星がどのように形成したかを考える上で貴重な惑星系となるほか、それぞれの惑星大気の観測が行われれば、惑星の大気獲得過程や恒星からの光が惑星大気の散逸や化学進化に与える影響の理解につながると期待される。
概要
東京大学大学院総合文化研究科の成田憲保教授(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター客員教授)、福井暁彦特任助教らのMuSCATチーム(注1)を含む国際共同研究チームは、宇宙望遠鏡と地上望遠鏡の連携した観測により、太陽系から約100光年離れた恒星HD 110067の周りで6つのトランジット惑星(注2)を発見しました。
この6つの惑星は、全ての隣り合う惑星の公転周期が2:3や3:4という簡単な整数比(尽数関係:注3)となっており、惑星が原始惑星系円盤の中でどのように形成し、移動してきたかを考える手がかりを与えてくれます。また、今後これらの惑星の大気の観測が行われれば、惑星の大気獲得過程や恒星からの光が惑星大気の散逸や化学進化に与える影響の理解につながると期待されます。
今回の発見は、アメリカ航空宇宙局(NASA)のトランジット惑星探索衛星TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite:注4)、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡CHEOPS(CHaracterising ExOPlanets Satellite:注5)、MuSCATチームが開発した多色同時撮像カメラMuSCAT2、MuSCAT3(図1、図2)を含めた複数の地上望遠鏡が連携した観測によって実現しました。
本研究成果は、2023年11月29日(英国時間)に英国科学誌「Nature」に掲載されます。
発表内容
太陽の約8割の質量と半径を持つ恒星HD 110067は、かみのけ座の方向、約100光年の距離にあります。この恒星はNASAのTESSによって、2020年3~4月と2022年2~3月に約27日ずつ明るさの変化をモニタリングする観測が行われました。TESSの観測によって、約9.11日と約13.67日の周期でトランジットによる減光が起きていることがわかりました。しかし、観測されたTESSのデータには他にもトランジットらしき減光がいくつもあり、この恒星の周りに一体いくつのトランジット惑星があるのか、それぞれの惑星の周期は何日なのかがわからない状態でした。そこで国際共同研究チームは、考察に基づく仮説と観測による検証により、この謎解きに取り組みました。
研究チームはまずトランジットの形(減光の深さと継続時間)に着目しました。これは、ある惑星によるトランジットは毎回同じ形をしているためです。そして研究チームはTESSのデータに2種類の同じ形のトランジットのペアが存在し、2020年と2022年にそれぞれ1回ずつ観測されていることを見出しました。しかし、TESSは約2年の間の時期は観測をしていなかったため、必ずしも周期が2年というわけではありません。約2年離れて観測された2回のトランジットの時間間隔を自然数で割ったものが真の周期の候補となります。これらの候補の周期で予想されるトランジットの時間帯にESAのCHEOPSが観測を行った結果、2種類のうち1つのトランジットは約20.52日の周期で起きていることが確認されました。
確認された3つの惑星の周期(9.11日、13.67日、20.52日)をよく見ると、隣り合う惑星の周期比がそれぞれ2:3という簡単な整数比になっていることに気づきます。同一の天体を公転する天体の周期比がこのように簡単な整数比になることを「尽数関係」と呼びます。太陽系にも尽数関係を持つ天体は存在し、例えば海王星と冥王星の公転周期の比は2:3となっており、木星の衛星であるイオ・エウロパ・ガニメデではそれぞれのペアの公転周期の比が1:2となっています。
このように尽数関係を持つ3つの惑星があることを惑星形成の観点から考えると、この惑星系では形成時に複数の惑星がお互いに尽数関係を持つ平均運動共鳴(注3)の軌道にとらわれ、原始惑星系円盤の中でその関係を保ちながら現在の軌道まで移動してきたと考えられます。そうすると、残りのトランジットを起こしている惑星の周期も尽数関係を持つと考えることが自然です。そこで研究チームは約2年間離れて観測されたもう1種類のトランジットの真の周期は約20.52日に対して尽数関係を持つ、すなわち観測された2回のトランジットの時間間隔を自然数で割った値が約20.52日と簡単な整数比を持つと考えました。そして、そのような条件を満たす唯一の解として約30.79日の周期を見出しました。
このように4つの惑星の周期が同定された後も、2022年のTESSのデータにはそれぞれ異なる形の2つのトランジットが残っていました。この2つはそれぞれ1回しかトランジットをしていないので、真の周期がわかりません。そこで研究チームは、5つ目の惑星の周期は約30.79日に対して尽数関係を持ち、さらに6つ目の惑星の周期は5つ目の惑星の周期に対して尽数関係を持つと仮定し、50通りのシナリオを考えました。具体的には、それぞれの周期比が1:2、2:3、3:4、4:5、5:6の5通り、かつ観測された2つのトランジットがそれぞれ5つ目と6つ目のどちらかがわからないので2通りの場合分けを考えました。これらのシナリオの中から、既存のTESSのデータにトランジットがないことや、天体力学的な考察をもとに、研究チームは5つ目の惑星の周期は約30.79日に対して3:4となる約41.06日、6つ目の惑星の周期は5つ目の惑星の周期に対して3:4となる約54.77日である可能性が高いと考え、以下の2つの方法でその仮説の検証を行いました。
その1つが、2022年5月23~24日(協定世界時)にかけて行われた複数の地上望遠鏡による5つ目の惑星(約41.06日周期)のトランジットの追観測キャンペーンです。MuSCATチームはこのキャンペーンに参加し、スペイン・テネリフェ島にあるMuSCAT2でトランジットの開始、アメリカ・マウイ島にあるMuSCAT3でトランジットの終了を精度良くとらえました(図3)。このトランジットは減光の深さが0.1%程度しかなく、トランジットの継続時間は5時間以上、予報の誤差も大きいという難度の高い観測でしたが、地上最高レベルの測光精度を4色で同時に達成でき、時差の離れた望遠鏡に搭載されているMuSCAT2とMuSCAT3の連携が大きな威力を発揮しました。このキャンペーン観測により、5つ目の惑星の周期が約41.06日であることが確認されました。
もう1つは、解析対象外となっていた2020年のTESSのデータの解析です。TESSは観測方向や時期によっては月や地球からの散乱光が観測視野に混入してしまい、そのようなデータはノイズが大きくなってしまいます。そうしたデータは取得されているものの、通常解析が行われません。しかし研究チームは、上の仮説が正しければ5つ目と6つ目の惑星のトランジットが2020年のTESSのデータの中にあるはずだと考え、解析対象外となっていたデータの解析を行いました。そして実際に、仮説によって予想された時刻にトランジットがあることが確認されました。
以上のように、研究チームは仮説と検証に基づいてTESSで観測された複雑なトランジットの謎を解き、HD 110067は全ての隣り合う惑星の公転周期が尽数関係を持つ6つ子の惑星系であることを明らかにしました。なお、7つ目以降の惑星の存在はまだ確認されていませんが、存在が否定されたわけではなく、今後も探索が続けられる見通しです。また、6つの惑星は地球の1.9~2.9倍の半径を持っており、地球のような岩石惑星ではなく、水素大気を持つ小さな海王星(海王星の半径は地球の約4倍)のような惑星であると考えられます。
2023年までに既に5千個を超える系外惑星が発見されていますが、HD 110067のように3つ以上の惑星が尽数関係を持つ惑星系は両手で数えられるほどしか発見されていません。このような惑星系は、惑星が原始惑星系円盤の中でどのように形成し、移動してきたかを理論的に深く考察する手がかりを与えてくれます。また、同一の主星の周りで5つ以上のトランジット惑星が発見されている中で、HD 110067は最も明るい恒星です。明るい恒星を公転するトランジット惑星は大気の観測に適しており、しかも同じ惑星系に複数のトランジット惑星があることから、それらの惑星の大気を観測し比較することが可能です。そのため、この6つ子の惑星は今後惑星大気の絶好のターゲットとなり、尽数関係にある惑星が原始惑星系円盤の中でどのように大気を獲得したかや、恒星からの光が惑星大気の散逸や化学進化にどのような影響を与えたかが調べられると期待されます。
○関連情報:
「プレスリリース① 火山活動の可能性がある地球サイズの惑星を発見 ―潮汐力により加熱された系外惑星LP 791-18d―」(2023/05/18)
「プレスリリース② ハビタブルゾーンにあるスーパーアースを発見」(2022/09/07)
「プレスリリース③ 大気の詳細調査に適した地球型の系外惑星を発見」(2021/03/05)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/files/20210305naritanosobun01.pdf
研究助成
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(科研費:課題番号JP18H05439)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST(課題番号JPMJCR1761)、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターサテライト(課題番号AB022006)の支援を受けて実施されました。
用語解説
(注1)MuSCATチーム
成田教授と福井特任助教らが岡山県の188 cm望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52 m望遠鏡、アメリカ合衆国・マウイ島の2 m望遠鏡、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の2 m望遠鏡用に開発した、3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジットを観測できる多色同時撮像カメラMuSCATシリーズ(装置名称はそれぞれMuSCAT、MuSCAT2、MuSCAT3、MuSCAT4)を用いて研究を行なっているチーム。MuSCATはMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産マスカットにちなんでいます。
(注2)トランジット惑星
系外惑星がその主星の手前を通過する時、主星の明るさが見かけ上わずかに暗くなります。この現象をトランジットと呼び、トランジットを起こすような軌道を持つ惑星をトランジット惑星と呼びます。
(注3)尽数関係と平均運動共鳴
2つの天体の公転あるいは自転の周期が簡単な整数比になること。本文では公転周期同士の尽数関係を例に挙げましたが、自転と公転の周期比についても使われる言葉で、例えば月の自転周期と月の公転周期は1:1の尽数関係にあると言うことができます。2つの天体の公転周期が尽数関係を持つ場合は、2つの天体が平均運動共鳴の状態にあると言われます。
(注4)TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)
TESSはマサチューセッツ工科大学の研究者が中心となって立案したトランジットによって系外惑星を探すNASAの衛星計画です。TESSは2018年4月18日に打ち上げられ、2年間でほぼ全天のトランジット惑星を探索するという計画を実施してきました。現在は第2期延長計画が実施されており、少なくとも2024年まで観測が続けられる予定です。これまでの5年間で、6千個を超えるトランジット惑星候補を発見しています。
(注5)CHEOPS(CHaracterising ExOPlanets Satellite)
CHEOPSはスイスの研究者が中心となって立案し、ESAによって2019年12月18日に打ち上げられたトランジット惑星の観測専用の宇宙望遠鏡です。主に既知のトランジット惑星のトランジットを高精度に観測し、そのトランジットが起きた時刻や惑星の半径を精度良く決定することを目的としています。当初は3.5年の計画でしたが、第1期延長計画が認められ、少なくとも2026年まで観測が続けられる予定です。
論文情報
雑誌名:Nature
題 名:A resonant sextuplet of sub-Neptunes transiting the bright star HD 110067
著者名:Rafael Luque*, Hugh P. Osborn, Adrien Leleu, et al. including Norio Narita and John H. Livingston
DOI:10.1038/s41586-023-06692-3
URL:https://www.nature.com/articles/s41586-023-06692-3