研究活動

東京大学の大学院生が太陽系外惑星を一度に44個も発見


44個の惑星の大きさと軌道の大きさの比較。色は惑星の温度を表す(溶岩の温度から地球の温度まで)。点線の丸は水星の軌道。©John Livingston
発表のポイント:
  • 東京大学の大学院生が中心となって、一度に44個もの新しい系外惑星を発見(実証)した。これは日本国内で最多の発見数。別の27個も有望な惑星候補。系外惑星専用衛星プロジェクトからの1000個単位での候補天体リリースを除くと、極めて稀な多数発見の成果を大学院生が主導できたことは、系外惑星研究が若い人の活躍できる分野であることを示す。
  • 発見した系外惑星は、比較的明るい恒星まわりの平均2地球半径の小型惑星で、今後詳しく調べることが可能。金星より小さいサイズの惑星も含まれる。
  • ケプラー宇宙望遠鏡を活用したK2ミッションによる、様々な天空領域における系外惑星の発見数を約10%も増加させ、宇宙望遠鏡と地上観測の連携の重要さを示した。とりわけ、ケプラー衛星が発見した惑星とは異なり、近い恒星まわりの惑星数が増えたことは、今後の詳細観測のために重要。
発表概要:

2009年に打ち上げられたNASAのケプラー宇宙望遠鏡は、はくちょう座の一領域に5000個を超える系外惑星とその候補を発見してきた。しかし、2013年の故障により、その後は新しいミッション「K2」として活用されている。この宇宙望遠鏡が発見した天体はあくまで惑星候補であり、地上観測等による確認・実証が不可欠である。K2ミッションではこれまで300個弱の惑星が実証されてきたが、より多くの多様な惑星の実証が求められていた。

今回、東京大学のリビングストン大学院生、田村教授(東大/ABCセンター長)、成田助教(東大)らの国際研究チームは、K2ミッションの生データから極めて丁寧な解析(恒星明るさの超精密測定)により有力な惑星候補をより選び出し、さらに、候補天体の地上からの撮像観測や分光観測でフォローアップを行い、一度に44個もの系外惑星を実証することに成功した。これまで国内で最多の系外惑星発見数である。これによりK2ミッションで実証された系外惑星の個数は300個を優に超えた。ケプラー衛星からの1000個単位での候補天体リリースを除くと、極めて稀な多数発見の成果を大学院生が主導できたことは特筆に値する。

既知の実証済み系外惑星数は約4000個であるが、今回の発見は明るい小型惑星を増やした点に意義がある。このうち1個は赤色矮星まわりにある、金星より小さい惑星である。これは、地球型岩石惑星の形成・進化を理解するために重要なターゲットとなるだろう。

この成果は本学のリビングストン大学院生が主著となって、米国の天文学専門雑誌であるアストロノミカル・ジャーナルに掲載された。

発表内容:

ケプラー宇宙望遠鏡は、はくちょう座の一領域に多数の系外惑星とその候補を発見してきた。これは、トランジット法と呼ばれる手法で系外惑星を捉える。天空の一領域を、広視野カメラを用いて連続的に撮像し、惑星が恒星の前面を横切る際の明るさの変化を捉える方法である。地球大気の影響を受けない宇宙望遠鏡は、地球サイズの小さな惑星が太陽サイズの恒星の光球面に影を作る際の微小な明るさ変化を精密に捉えることが可能である。しかし、2013年の故障でケプラー宇宙望遠鏡は本来の観測を断念し、その後は黄道面上の異なった領域を季節ごとに観測するという新しいミッション「K2」として復活した。望遠鏡の解像度が低いこと、衛星姿勢制御装置の故障などにより、惑星候補の選び出しのためのデータ解析には最新の注意が必要であり、そのデータに基づく惑星候補は、地上での高解像度観測など、フォローアップ観測が不可欠である。K2によるこれまでの観測から300個弱の惑星が実証されてきたが、より多くの多様な惑星の実証が求められていた。

今回、東京大学のリビングストン、田村、成田らの国際研究チームは、K2ミッションに基づくデータから一度に44個もの系外惑星を実証することに成功した。チームは日本以外、イタリア、ドイツ、スペイン、オランダの研究者・学生から成る。これによりK2ミッションで実証された系外惑星の個数は優に300個を超えた。そのほかの27個も有望な惑星候補であり、別の1個だけが偽惑星であった。この成果は、東京大学の大学院生ジョン・リビングストンが主著者となって天文学専門雑誌であるアストロノミカル・ジャーナルに掲載された。リビングストンは、複雑かつ精緻さを必要とするK2衛星データの解析を生データから行った。解析の各ステップでより良いパラメータが判明し、時には全ての解析をやり直すなど骨の折れる仕事であった。彼は、国際チームと協力しつつ、その結果得られた有望な惑星候補の様々な地上フォローアップ観測の提案とその観測遂行・データ解析も行った。

フォローアップ観測は、主にアメリカのキットピーク天文台の望遠鏡を用いて行われた。観測したのは72個のK2惑星候補である。この際、大気揺らぎを短時間積分観測により「凍結し」シャープな画像を得る「スペックル撮像」という技術を用いた。これは大気の揺らぎをリアルタイムに補正する補償光学とは異なるが、比較的容易に高い解像度を得ることができる。この高解像度画像は、惑星そのものを直接撮像できるものではないが、近くの恒星の混合の有無など、K2データから選び出した惑星候補が偽惑星であることを排除する大きな要素となる。また、テキサスの望遠鏡を用いた分光観測も行われ、これにより主星の物理パラメータを精密に求め、その結果として、惑星の大きさや温度をより精密に決定する事に成功した。これら高解像度画像や分光データとトランジットデータの統計的解析から、最終的な惑星実証が行われた。

 赤色矮星を周回する金星サイズの小さな惑星の想像図。©NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (IPAC)

本研究は、比較的明るい恒星まわりの小型惑星数を増加させたことが重要である。ケプラー望遠鏡が発見した多数の小型惑星は遠すぎて主星が暗く、今後のフォローアップ観測が困難である。いっぽう、明るい恒星まわりの惑星はフォローアップがし易い。今回の観測により、現在の既知の惑星数に比べて(ケプラー衛星以外も含む)、明るい恒星(波長1.2μmのJバンド等級が8-10等)を周回する1-2地球半径のスーパーアースは4%、2-4地球半径の小型海王星は17%、4-8地球半径の小型土星は11%も数が増えた。これら44個の惑星のうち18個は複数惑星系のメンバーである。また、4個は周期が一日未満という超短周期惑星である。さらに、別の1個は赤色矮星まわりにある、金星より小さい惑星である。これらは、地球型岩石惑星の形成・進化を理解するために今後の重要な観測ターゲットとなるだろう。

K2ミッションのデータは今後もリリースされるので、本チームでは迅速なフォローアップを計画している。また、2018年4月に無事打ち上げられたNASAのTESS衛星からのデータでも同様の地上フォローアップ観測が重要になるので、地上チームの活躍が期待される。

論文情報:

雑誌名:「The Astronomical Journal」(掲載決定済、発行日未定

論文タイトル:44 Validated Planets from K2 Campaign 10

著者:John H. Livingston, Michael Endl, Fei Dai, William D. Cochran, Oscar Barragan, Davide Gandolfi, Teruyuki Hirano, Sascha Grziwa, Alexis M. S. Smith, Simon Albrecht, Juan Cabrera, Szilard Csizmadia, Jerome P. de Leon, Hans Deeg, Philipp Eigmueller, Anders Erikson, Mark Everett, Malcolm Fridlund, Akihiko Fukui, Eike W. Guenther, Artie P. Hatzes, Steve Howell, Judith Korth, Norio Narita, David Nespral, Grzegorz Nowak, Enric Palle, Martin Paetzold, Carina M. Persson, Jorge Prieto-Arranz, Heike Rauer, Motohide Tamura, Vincent Van Eylen, and Joshua N. Winn

アブストラクトURL  https://arxiv.org/abs/1806.11504

関連リンク:

東京大学プレスリリース(英語)