概要:
中山大学/Rice大学 物理・天文学専攻の 劉尚飛 准教授、アストロバイオロジーセンターの堀 安範 特任助教らの国際研究チームは、木星が形成される最終段階に大規模な天体衝突が起きた可能性があることを発表しました。本研究成果は、2019年 8月15日発行 英国の科学雑誌 Natureに掲載されました。
背景:
太陽系最大の惑星、木星は質量の90%以上が水素とヘリウムでできたガス惑星です。木星の深部には、岩石と氷成分から成る中心核 (コア)*1 が存在すると考えられていますが、その詳細は未だ謎に包まれています。木星の中心核の存在の有無および大きさは、木星誕生を紐解く重要な鍵になるとされています。そこで、アメリカ航空宇宙局 (NASA)は、2003年9月に木星探査を終えたGalileo (ガリレオ) 探査機の後継機として、2011年 8月5日にケネディー宇宙センターから探査機 Juno (ジュノー)を打ち上げました。2016年 7月5日、探査機 Junoは木星到達後、木星の極周回軌道上で木星の重力場の精密測定を開始しました。重力場の観測から、木星内部には従来、予想されていたよりも遥かに巨大な中心核 (最大で、木星の大きさの半分程度) が存在する可能性が出てきました。さらに、巨大な中心核は岩石・氷成分と水素 (金属水素*2) ・ヘリウムが混ざり合った「密度の低い巨大な核」であると示唆されました。もし、木星が密度の低い巨大な中心核を隠し持つとすると、巨大な中心核は一体、どのようにして誕生したのかが新たな疑問となっていました。
研究成果:
研究チームは、密度の低い巨大な中心核の起源として、木星が形成される最終段階に大規模な天体衝突の可能性に着目し、天体衝突の3次元流体数値シミュレーションを実施しました。図1は地球の10倍程度の質量を持つ巨大な天体が木星にほぼ正面衝突する前後の様子(密度分布)を示しています。衝突した天体は木星の深部まで到達し、木星の中心核と衝突合体することがわかります。衝突に伴う衝撃波と駆動される乱流による擾乱の影響で、木星の中心核の物質は上層部へと輸送され、周囲の水素・ヘリウムと激しく混合します。その結果、密度の低い、大きく広がった巨大な中心核が形成されました。ただし、大規模な天体衝突で形成された巨大な中心核がその後、45億6千万年間、化学組成的かつ力学構造的に維持されるためには、衝突後の中心核の温度が約3万度の高温状態にある必要があります。
一方、木星に小さな天体が衝突するケースや天体が斜め45°で衝突するケースでは、密度の低い巨大な中心核は形成されませんでした。木星の形成段階で起きる天体衝突現象を分析すると、衝突イベントのおよそ50%は正面衝突から衝突角度 30°以下の斜め衝突であることが分かりました。このことから、本研究で想定した木星と天体の大規模な正面衝突は、確率的に十分起こり得る現象であると考えられます。
以上から、木星は形成の最終段階に大規模な天体衝突を経験した可能性があると結論付けました。
*1 木星の中心核のサイズは、探査機による木星重力場の測定精度と超高圧・高温条件下での水素やヘリウムの振る舞い (状態方程式)に依存する。探査機 Juno以前の木星重力場の測定データに基づいた内部構造モデルによると、中心核はおよそ 8倍の地球質量以下と推定されていた。
*2 超高圧下 (数100GPa以上)では、水素は圧力電離し、金属状態になる。
論文情報:
掲載誌:Nature
論文タイトル:The formation of Jupiter’s diluted core by a giant impact
著者:
Shangfei Liu1,2, 堀 安範3,4, Simon Müller5, Xiaochen Zhen6, Ravit Helled5, Doug Lin7,8, Andrea Isella8
1) 中山大学 物理・天文学科, 2) ライス大学 物理・天文学専攻, 3) アストロバイオロジーセンター4) 国立天文台, 5) チューリッヒ大学 理論宇宙物理学・宇宙論センター, 6) 清華大学 物理学専攻 宇宙物理学センター7) カリフォルニア大学サンタクルーズ校 天文・宇宙物理学専攻, 8) 清華大学 先端研究所
DOI:10.1038/s41586-019-1470-2
関連リンク:
ライス大学プレスリリース