発表のポイント
- 宇宙望遠鏡と地上望遠鏡による世界的な連携観測によって、新たな太陽系外惑星(系外惑星)LP 791-18dが発見された。
- LP 791-18dでは木星の衛星イオのような活発な火山活動が想定される。
- LP 791-18dはハビタブルゾーン(生命居住可能領域)の内側境界付近にあり、大気を保持する可能性があるため、生命誕生の起源を探る研究にとって興味深い惑星として注目される。
概要
東京大学大学院総合文化研究科の成田憲保教授(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター客員教授)、福井暁彦特任助教、森万由子特任研究員らが参加する国際研究チームは、宇宙望遠鏡と地上望遠鏡による観測を組み合わせた研究により、およそ90光年先にある赤色矮星(注1)LP 791-18の周りに地球サイズの系外惑星LP 791-18dを新たに発見しました(図1)。この惑星dは、外側の隣接する軌道を公転する大きくて重い惑星cからの引力を受けて軌道が楕円形になっており、木星の衛星イオのように火山に覆われている可能性があります。この惑星は今後の惑星大気の観測が期待され、地殻活動が惑星大気にどのような影響を及ぼすかについて重要な発見をもたらす可能性があります。今回の発見は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のトランジット惑星探索衛星TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite:注2)、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡(注3)、東京大学とアストロバイオロジーセンターの研究者が開発した多色同時撮像カメラMuSCAT、MuSCAT2(図2、3)を含めた多数の地上望遠鏡が連携した観測によって実現しました。
本研究成果は、2023年5月17日(英国夏時間)に英国科学誌「Nature」に掲載されました。
発表内容
〈研究の背景〉
赤色矮星LP 791-18は、太陽系からおよそ90光年離れたコップ座の方向にあります。この恒星の周りにはこれまで、トランジット惑星探索衛星TESSによる観測から惑星bとcが見つかっていました。惑星bは地球の約1.2倍の半径で公転周期は約0.94日、惑星cは地球の約2.5倍の半径で公転周期は約4.99日の惑星です。
〈研究の内容〉
新たな惑星LP 791-18dのトランジットは、127時間におよぶスピッツァー宇宙望遠鏡の連続観測によって発見されました。この惑星dは、惑星bとcの間の軌道に位置しており(図1)、恒星の周りを公転周期2.75日で公転しています。半径はおよそ1.03地球半径と推定され、半径は地球ととてもよく似ています。
この惑星がどのような惑星なのかを調べるため、日本のMuSCATチーム(注4)を含め、TESSの公式追観測プログラムであるTFOP(TESS Follow-up Observing Program)に参加している多数のチームが地上望遠鏡を用いて惑星cとdのトランジット観測を行いました。
LP 791-18の周りを公転するたびに、惑星dとcは接近するタイミングが訪れます。この時お互いの引力が影響を及ぼし合うため、トランジット時刻が一定の公転周期からずれます。このトランジット時刻のずれを調べることで、引力を及ぼしている惑星の質量を推定することができます。MuSCATチームをはじめ、多数の地上望遠鏡による観測を繰り返すことで毎回のトランジット時刻を測定し、惑星dの質量が地球と同程度、惑星cの質量が地球の9倍程度であることを明らかにしました。
惑星cから及ぼされる引力は、惑星dの公転軌道をわずかに楕円形に変形させています。この楕円形の軌道を公転する中で、惑星dには恒星からの潮汐力(注5)が働き、わずかに変形します。この変形が惑星内部の摩擦を生み、惑星を加熱し、惑星表面で活発な火山活動を起こしている可能性があります。これは、太陽系で最も活発な火山活動を示す木星の衛星イオの加熱メカニズムと同じです。
〈今後の展望〉
LP 791-18dはハビタブルゾーンの内側境界付近に位置している惑星で、恒星からの潮汐力により自転周期と公転周期が一致しており、恒星に常に同じ面を向けていると考えられます。恒星からの光を受けている惑星の「昼側」の面は液体の水が存在するには高温すぎる可能性が高いですが、火山活動が起こっていれば惑星に大気が存在し、「夜側」の面では大気中で水蒸気が凝集し液体の水が存在している可能性があります。
惑星cについては、昨年から観測を始めた最新の宇宙望遠鏡であるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(注6)による惑星大気の観測が予定されています。加えて、今回発見された惑星dも重要な惑星大気観測のターゲットになり得ると研究チームは考えています。
惑星の活発な火山活動は、本来惑星の地殻内部に閉じ込められてしまう物質を大気中に送り込む役割を果たしているかもしれません。そういった物質の中には、生命にとって重要である炭素なども含まれます。この惑星の大気組成の検出が実現できれば、惑星の地殻活動が惑星大気に及ぼす影響を深く調べることが可能になるでしょう。これは生命の起源の研究につながる可能性があり、「アストロバイオロジー(宇宙生物学)」の観点からも重要です。
研究助成
本研究は、科学研究費助成事業(科研費:課題番号JP17H04574、JP18H05439)、特別研究員奨励費(課題番号JP20J21872)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ(課題番号JPMJPR1775)、CREST(課題番号JPMJCR1761)、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンタープロジェクト(課題番号AB031010)の支援を受けて実施されました。
注釈
(注1)赤色矮星
表面温度がおよそ摂氏3,500度以下の恒星を赤色矮星と呼びます。宇宙に存在している恒星の約8割は赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星です。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、惑星表面に液体の水を保持しうる領域であるハビタブルゾーンが太陽の場合よりも短周期となります。
(注2)トランジット惑星探索衛星TESS
系外惑星がその恒星の手前を横切る時、恒星の明るさがわずかに暗くなります。この現象をトランジットと呼び、トランジットを観測することで系外惑星を発見し、その惑星の周期や大きさなどを調べることができます。TESSはトランジットによって系外惑星を探すNASAの衛星計画です。TESSは2018年4月18日に打ち上げられ、2年間でほぼ全天のトランジット惑星を探索するという計画を実施してきました。現在は第2期延長計画が実施されており、少なくとも2025年まで観測が続けられる予定です。これまでの5年間で、6,000個を超えるトランジット惑星候補を発見しています。
(注3)スピッツァー宇宙望遠鏡
NASAが2003年に打ち上げた宇宙望遠鏡で、2020年に退役しました。高精度な赤外線の観測が可能で、系外惑星の観測においても大きく活躍しました。
(注4)MuSCATチーム
成田教授と福井特任助教らが岡山県の188 cm望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52 m望遠鏡、アメリカ合衆国・マウイ島の2 m望遠鏡用に開発した、3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジットを観測できる多色同時撮像カメラMuSCATシリーズ(装置名称はそれぞれMuSCAT、MuSCAT2、MuSCAT3)を用いた研究チーム。MuSCATはMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産にちなんでいます。
(注5)潮汐力
大きさを持った天体Aが別の天体Bからの重力を受けるとき、天体Aに生じる形状を変化させるような力のこと。地球では月の影響によって海の満ち引き(形状の変化)が生じています。木星の衛星イオでは、潮汐力によって生じる衛星内部の摩擦によって内部が加熱され、活発な火山活動が起こっています。
(注6)ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡NASAが中心となって打ち上げた6.5 mの口径を持つ宇宙望遠鏡。2021年12月25日に打ち上げられ、2022年から科学観測が開始されました。可視・近赤外・中間赤外領域において、これまで達成し得なかった精度での撮像・分光・測光観測が可能となりました。
論文情報
〈雑誌〉 Nature
〈題名〉 A temperate Earth-sized planet with tidal heating transiting an M6 star
〈著者〉 Merrin S. Peterson, Björn Benneke, Karen Collins et al.
〈DOI〉 10.1038/s41586-023-05934-8
〈URL〉 https://www.nature.com/articles/s41586-023-05934-8
関連リンク
東京大学プレスリリース
科学技術振興機構(JST)プレスリリース