研究活動

太陽系の近くに低日射の小型系外惑星を発見


水素大気と海をもつ系外惑星を想像して描いたイラスト。(クレジット:ササオカミホ/SASAMI-GEO-SCIENCE, inc.)
発表概要:

東京大学および自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの研究者を中心とする研究チームは、系外惑星探索衛星TESSと地上望遠鏡の連携により、太陽系の近傍(138光年先)に新たな系外惑星「TOI-2285b」を発見しました。この惑星は地球の約1.7倍の大きさ(半径)をもち、また、地球が太陽から受ける日射量の約1.5倍という、これまでに発見された系外惑星の大半より弱い日射を主星から受けています。惑星は地球よりやや高温の環境をもつと考えられますが、もし仮に惑星が内部にH2Oの層をもち、かつ水素を主体とする大気をもっていれば、惑星の表面に液体の水が存在する可能性もあります。主星が明るく詳細な追観測が可能なため、今後惑星の質量や大気組成を調べることで、惑星の内部組成についてより詳細な情報を得ることができると期待されます。

研究背景:

2009〜2018年に活躍したアメリカ航空宇宙局(NASA)のケプラー宇宙望遠鏡により、4000個を超える系外惑星がトランジット法(注2)で発見されました。その中には、生命の存在が期待される温暖かつ小型の系外惑星も多数含まれています(図1)。しかし、ケプラー宇宙望遠鏡で発見された惑星系の大半は太陽系から500光年以上遠方に位置し、主星が暗いために、惑星の質量や大気組成といった詳細な情報を得ることが困難でした。そこで現在、ケプラー宇宙望遠鏡の後継機に当たるTESS宇宙望遠鏡が、全天の明るい恒星を対象に系外惑星の探索を行なっています。TESSの探索で発見される明るい恒星まわりの惑星では、その後の追観測により、惑星の質量や大気組成などの詳しい情報が得られると期待されています。

 一方、解像度や観測期間などの制約のため、TESSの観測だけでは惑星の「候補」となる天体しか発見することができません。そのため、真の惑星を発見するためには、発見された惑星の候補天体を地上の望遠鏡を用いて詳細に観測し、真偽の検証を行う必要があります。そこで現在、東京大学および自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの研究者を中心とする研究チームは、国内外の口径2m級の3台の望遠鏡に搭載された多色撮像装置MuSCAT(マスカット)シリーズ(注3)、およびハワイの口径8.2mすばる望遠鏡に搭載された赤外ドップラー観測装置IRD(注4)などを用いて、TESSの探索で発見される惑星候補天体の検証観測を精力的に進めています。

図1:これまでに発見された系外惑星のうち、半径が地球の2倍以下の惑星の、地球からの距離(横軸)と主星から受ける日射量(縦軸)の分布。丸、星、三角の印はそれぞれケプラー宇宙望遠鏡、TESS宇宙望遠鏡、および地上の望遠鏡で発見された惑星を示す。プロットの色は主星の近赤外線での明るさ(J等級)を示し、黄色に近いほど明るい。今回発見されたTOI-2285b(大きい星印)は、プロットされている惑星の中で4番目に主星が明るい。(クレジット:東京大学)

研究の成果:

 今回、研究チームは、検証観測を行なった惑星候補の中から太陽系の比較的近傍(138光年先)の恒星を公転する惑星「TOI-2285b」を発見しました。TOI-2285bは半径が地球の約1.7倍と比較的小さく、低温度(摂氏3200度)の恒星のまわりを周期約27日で公転しています。

 TESSで発見された惑星候補天体が本物の惑星かどうかを検証するためには、複数の波長でトランジットを観測することがとても重要です。しかし、TOI-2285bのトランジットは27日に1回しか起こらないため、地上から好条件(夜間かつ快晴)で観測できる機会はとても限られていました。研究チームは、複数の波長で同時にトランジットを観測できるMuSCATシリーズを3台開発し、国内外の3台の望遠鏡に配置していたため、世界に先駆けてTOI-2285bが惑星であることを確認することができました。さらに、世界でも有数の惑星質量の精密測定が可能な赤外ドップラー観測装置IRDを用いることで、惑星の質量の上限値(地球質量の19倍)を得ることにも成功しました。

 TOI-2285bと主星の距離は、地球と太陽の距離の約1/7ほどしかありませんが、主星が低温度のため、惑星が主星から受ける日射量は、地球が太陽から受ける日射量の約1.5倍と見積もられます。この日射量は、これまでに発見された他の多くの系外惑星と比べると穏やかですが、それでも、もし惑星が地球と同じように薄い大気しかもたない岩石惑星であった場合、惑星表面の水がすぐに干上がってしまう程度に強力です。一方、もし惑星の中心核の外側にH2Oの層が存在していて、かつその外側を水素を主体とする大気が覆っていた場合(注5)、H2O層の一部が液体として安定的に存在する可能性があります。今回、研究チームはそのような内部組成を仮定してTOI-2285bの内部の温度と圧力のシミュレーションを行ったところ、確かに惑星の表層に液体の水(海)が存在する可能性があることが分かりました(トップ画像)。

今後の展望

 今後、実際にTOI-2285bの表層に液体の水が存在するかどうかを調べるためには、まずは惑星の質量を正確に測定し、既に判明している惑星の半径や日射量の情報と合わせて惑星の内部組成を制約することが重要となります。惑星の質量を測定するためには主星が十分に明るい必要がありますが、TOI-2285bは太陽系近傍の恒星を公転しており、赤外線で明るく見えるため、IRDのような大型望遠鏡に取り付けられた赤外ドップラー観測装置を用いることで、実際に質量の測定が可能です。今回の研究では、惑星の質量についてまだ上限値しか得られていませんが、今後のさらなる観測により、惑星の正確な質量を測定し、惑星の内部組成により迫ることができると期待されます。また、2021年12月に打ち上げが迫ったジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などの次世代望遠鏡により、惑星の大気組成を調べることで、大気中に水などの分子が存在するかどうかを明らかにできると期待されます。

 TOI-2285bの発見は、将来の系外惑星における「生命の痕跡探し」への重要な一歩とも言えます。今後、次世代の大型宇宙望遠鏡や地上の巨大望遠鏡により、温暖な系外惑星の大気中に水や酸素などの生命の痕跡となる分子を探る研究が可能になると期待されています。一方、生命の痕跡の確かな証拠を得るためには、1つや2つの惑星の観測だけでは不十分であり、なるべく多くの惑星を観測することが重要と考えられています。しかし、現時点ではまだ観測対象として有望な惑星(太陽系近傍で、小型かつ温暖な惑星)の数はごく限られています(図1)。TOI-2285bは、仮に惑星表層に液体の水が存在したとしても、その環境(地殻の有無、大気組成、気候など)は地球とは大きく異なると考えられますが、それでも現時点では生命の痕跡を探す対象として有望な惑星の候補の1つと言えます。TESSは少なくとも2022年まで探索を継続する予定のため、今回と同様に地上望遠鏡との連携を行うことで、TOI-2285bと同等、もしくはより有望な惑星の数を今後さらに増やすことができると期待されます。

本研究成果は、2021年12月6日に日本の学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」のオンライン版に掲載されました。本研究は、科研費 新学術領域計画研究「惑星大気の形成・進化とその多様性の解明」(研究代表者:生駒 大洋、課題番号:JP18H05439)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ 研究領域「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」における研究課題「多色同時撮像観測と高精度解析による第二の地球たちの探査」(研究者:成田 憲保、課題番号:JPMJPR1775)、科研費 基盤研究B「太陽系近傍の小型トランジット系外惑星の発見と大気の系統的調査」(研究代表者:福井 暁彦、課題番号:JP17H04574)、大学共同利用機関法人自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターのプロジェクト「TESSで発見された生命居住可能惑星候補の発見確認と特徴付け」(研究代表者:成田 憲保、課題番号:AB031010)の支援を受けています。

発表雑誌

雑誌名:Publications of the Astronomical Society of Japan(オンライン版:12月6日)
論文タイトル:TOI-2285b: A 1.7 Earth-radius Planet Near the Habitable Zone around a Nearby M Dwarf
著者:Fukui, A.*, Kimura, T., Hirano, T., Narita, N., et al.
DOI番号:10.1093/pasj/psab106

用語解説

(注1)正式名称はTransiting Exoplanet Survey Satellite。2018年に打ち上げられ、トランジット法(注2)を用いて全天の明るい恒星をまわる惑星の探索を行なっています。今のところ2022年まで探索が継続される予定です。

(注2)惑星が主星の手前を通過(トランジット)する際に観測される、主星の周期的な減光を捉える手法。同手法では、惑星の半径や公転周期を求めることが可能です。

(注3)岡山県の188cm望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の口径1.52mの望遠鏡、およびアメリカ合衆国・マウイ島の口径2mの望遠鏡に設置された、可視光域の3もしくは4つの波長帯で同時にトランジットの観測ができる装置(装置の名称はそれぞれMuSCAT, MuSCAT2, およびMuSCAT3)。本研究では、MuSCAT2およびMuSCAT3を用いて、TESSで観測されたトランジットのシグナルを確認しました。

(注4)ドップラー法という手法を用いて高精度に惑星の質量を測ることのできる、赤外線の分光装置。本研究では、質量の上限値を得ることで、トランジットをしている天体が恒星ではなく、惑星である(質量が木星の13倍以下である)ことを確認しました。

(注5)惑星内部におけるH2O層の存在は惑星の形成理論から予測されています。一方、水素を主体とする大気については、少なくとも惑星が形成された初期には存在していた可能性が高いと考えられますが、その後、主星から放射される高エネルギーの電磁波(X線や紫外線)によって剥ぎ取られてしまっている可能性もあります。

関連リンク:

東京大学リリース

科学技術振興機構リリース